グローバル市場への挑戦〜常州・上海発マルチドリル拡販戦略〜
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マルチドリルの生産は、ドリル生産会社である東海住電精密(株)の設立に始まり、以後、欧米、東南アジア、中国へと製造拠点を拡大していった。
「マルチドリルの提供によって、穴あけ加工のトータルソリューションを提供するのが我々のミッションだと考えています。時代と共に変化する多様なニーズに応え、安定した高品質な製品をユーザーに確実に届けること。そして、世界に広がるドリル製造拠点のマザー工場として、グローバルで住友品質を提供することを常に追求していきたいと思っています。このため、海外製造拠点における技術者向けの研修や、技術指導者の派遣を積極的に行っています」(東海住電精密(株)社長・伊藤敏明)
マルチドリルの海外生産は、先述したように1989年、ドイツから始まり、米国、東南アジア、中国へと拡大したが、自動車や建設機械の世界的な需要増もあり、現在、国内外の生産・販売の状況は共に極めて順調だ。欧州は安定的な動きで推移しており、米国では自動車メーカーの工場新設に伴い急激に需要が高まっている。東南アジアは、今後の経済発展に伴う生活水準の向上で、自動車の需要が爆発的に増加する可能性を秘めており、それに伴いマルチドリルの需要も高まることが指摘されている。そして注目すべきは、巨大マーケットであり年々市場が拡大している中国だ。
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モデル工業都市として発展目覚ましい中国・常州市に、2011年にマルチドリルの製造拠点・住友電工硬質合金(常州)有限公司(SHMC)を設立、翌2012年に本格稼働させた。
「常州のみならず、海外拠点では、現地で製造し現地の製造加工メーカーに供給する、地産地消が基本スタンスです。中国市場の良好な景況感に伴う市場拡大の追い風もあり、生産は順調に推移していますが、中国地場の切削工具メーカーがドリル分野においても頭角を現してきており、ここにきて競争がより厳しくなりつつある状況です」(SHMC 総経理(社長)・米岡弘滋)
そうした中、SHMCは「製造拠点として安定した品質の製品を届けることが第一であり、それが競争力の源泉」(米岡)という姿勢を崩さない。
「マルチドリルは様々な環境で使用されます。どのような条件下でも、安定した品質の穴あけ加工を実現すること。すなわち、住友品質を維持確保することが、我々製造を担う者にとって最大の使命と考えています。また、住友イズム、住友事業精神を社員と共有する。それが品質の向上維持や現場改善につながっていくと考えています」(米岡)
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中国・上海。その一角にオフィスを構えるのが、マルチドリルをはじめとした切削工具の販売を手掛ける、住友電工硬質合金貿易(上海)有限公司(SHMS)だ。中国全土に15の販売拠点を有し、およそ50社の代理店を通じて、約7000社のエンドユーザーに製品を販売しているが、重要なのが技術サポートだ。
「いわゆるトラブルシューティングを担当するのが技術スタッフの役割。中国全土を飛び回っていますが、問題発生の原因を見極めて的確に判断し、早急な解決が求められます。その適切で真摯な対応がユーザーとの信頼関係の構築にもつながります」(SHMS 技術部部長・福森哲)。こうした営業戦略を側面から支援しているのが、「ツールエンジニアリングセンター」である。
現在、SHMSは売上が年率10〜15%増で推移しているが、それはシェア拡大を意味するものではない。地場メーカーが猛追する中で、いかにして勝ち抜いていくか。SHMSの総経理(社長)である井戸正之は、汎用性の高い次世代マルチドリルが要請されているこの機会に、地場メーカーにはできないサービスの拡充を進めていきたいと言う。
「製造現場は、IoTを駆使したインダストリー4.0の時代を迎えています。今後、それら最先端の技術を導入していきたい。IoTの導入などによって、製品そのものの使用状況や状態などの情報を得て、それを分析することでお客様の現場改善につなげていく。そうした新しいサービスの提供によって、他社との差別化を図り、中国市場における住友のドリルのプレゼンスを高めていきたいと考えています」(井戸)
前出のハードメタル事業部長・村山敦も口を揃える。
「価格では対抗できないほどの低価格競争が展開されている中、我々がシェア拡大を進めていくにはサービスの向上がカギを握っており、特に中国においては、再研磨体制の充実がポイントになると思っています。再研磨で高品質のドリルを長く使えること、それがコストパフォーマンスを向上させるということへの理解と納得を求めていく、地道な啓蒙活動が必要だと考えています」(村山)
ツールエンジニアリングセンター(TEC)
国内・海外合わせて12ヵ所の製造拠点に併設するTECは、マルチドリルをはじめとした切削加工に関して、研修や技術相談などを実施することでお客様のものづくりをサポートする拠点である。各種講習の実施は言うまでもなく、お客様の生産工程における課題を把握し最適なソリューションを提案するなど、工程改善まで踏み込んだ活動を行っている。また、ドイツにあるTEC は、その名称が「European Design & Engineering Center」。ものづくりサポートに留まらず、デザイン(設計・開発)も含めたサポート体制を整備しており、独自の取り組みを見せている。
講習会に参加していたお客様の声
朱 小明 氏(自動車部品メーカー)
「住友電工のドリルを採用後は、稼働率が高くなりコストダウンを実現しています。講習会も非常に有意義であり、トラブルへの適切な対応が可能になりました」
劉 紅寅 氏(金型メーカー)
「ハイスに比べて4倍の高能率を実現する住友電工のドリルは、加工現場の革命的なツール。講習会も多彩なメニューが揃っており、有益な情報を得ることができました」
左から
蔡 錚 住友電工硬質合金貿易(上海)有限公司 市場部 部長
二次代理店の管理と展示会などのプロモーションやキャンペーンの企画立案を担う。
于 新波 住友電工硬質合金貿易(上海)有限公司 技術部 技術グループ長
講習会やトラブルシューティングを担当し、その守備範囲は中国全土に及ぶ。
曾 琪慧 住友電工硬質合金貿易(上海)有限公司 上海第二営業グループ長
営業担当として、代理店のサポートをメイン業務として推進する。